書評 『日本史の論点』

今回は書評です。

中公新書編集部編2018『日本史の論点 邪馬台国から象徴天皇制まで』という本です。最新の研究動向を知りたくて購入しました。

 

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本書では古代、中世、近世、近代、現代それぞれの5人の研究家によって現在の日本史研究の論点をまとめられています。

ここでは私が特に興味深く感じた近世についてまとめたいと思います。

近世篇の執筆者は大石学さん。目次は次の通りです。

 

論点1 大名や旗本は封建領主か、それとも官僚か

論点2 江戸時代の首都は京都か、江戸か

論点3 日本は鎖国によって閉ざされていた、は本当か

論点4 江戸は「大きな政府」か、「小さな政府」か

論点5 江戸の社会は家柄重視か、実力主義

論点6 「平和」の土台は武力か、教育か

論点7 明治維新は江戸の否定か、江戸の達成か

 

ここで筆者は、現代の日本の様々なシステムを考えたとき、江戸時代にその基礎が出来ているということから江戸時代を初期近代としています。今や、お殿様の元で武士たちに虐げられていた力も教養もない農民、という近世像は古いのでしょう。

 

特に鎖国に関しては、一般にイメージされるものとはかなり異なる像が通説となっているようです。つまり、江戸時代を通して日本は閉じた社会だったので近代化に乗り遅れてしまったというイメージです。実際には外国から入ってくる書物を人々が求めることが出来たし、キリスト教文化も入ってきていました。また、明治維新で開国されたという見方ではなく、江戸時代にあった松前対馬、長崎、薩摩という4つの外国への窓口が8つに拡大されただけだという見方が提示されています。

 

そして明治維新への流れも見方が変わっています。次の「近代編」とも関わりますが、明治維新は江戸時代の否定ではなく、達成だとしているのです。その理由の一つは幕臣が多く明治新政府に登用されている点です。大鳥圭介榎本武揚がその例です。省エネ省ロスの政権交代をしていた、と書かれています。(明治維新は世界各国の近代革命と比べて死傷者が異常に少ないことで知られています。)また、江戸時代に築かれた教育や人材登用のシステムが明治維新にも引き継がれていることも次の「近代編」に書かれています。

 

江戸時代から明治時代への移行期は価値観や制度などの多くが一新されたと思っていたのですが、どうやら江戸時代に既に構築されていたシステムを上手く活用して西洋の仕組みや物を取り入れていったというのが正しそうです。日本に珍しい平和な時代が250年も続いたというのも江戸時代を研究する価値はありそうです。

 

全体的に今までの日本史に関する認識を改めさせてくれる本でした。「日本史」そのものにも歴史があるので、その先入観が本当に正しいのかを吟味して各時代を考えなくてはいけないと思いました。