ザミャーチン『われら』

ザミャーチン1920~1921『われら』の感想を書いていく。

われら (岩波文庫)

ザミャーチンソ連初期の作家。この『われら』が反ソ的だとされ、亡命せざるを得なくなった。

 

『われら』の舞台設定は今から、というより彼の生きた20世紀初頭から約1000年後。その間には大200年戦争があったらしい。(プーシキンやカントやテーラースクリャービンが古代人として出てくる。)主人公は「インテグラル」という宇宙船の製作担当官であり、未知の惑星に住む野蛮な生物に対して幸福を教えるために「覚え書き」と称してこの文章を書いたという設定になっている。「覚え書き」といってもその内容は日記である。未知の惑星に住む野蛮な生物とはすなわちザミャーチンの同世代の人々のことをも意味するのだろう。そこにはちょうどこの作品が書かれてから100年しか経っていない我々現代人も含まれるに違いない。

 

彼の40に及ぶ「覚え書き」から未来の様子が分かる。世界は単一国のもとに統一され、恩人が名目の選挙によって選ばれて統治している。人々は一人一人ナンバーを与えられ、時間律法表で決められた行動をする。決まった回数だけ石油食品を咀嚼し、決まった時間に一斉に仕事に向かう。16時~17時と21時~22時の2回だけ個人時間と呼ばれる自由時間がある。人々の中には守護者と呼ばれている秘密警察がまじって大衆を監視している。都市はガラスで出来ており、個人の部屋は外から監視できるようになっている。夜の営みも管理されており、そのときだけブラインドを下ろすことになる。都市全体は緑の壁によって隔絶されており、その外には野生の動植物が広がり、そして単一国に属さない人間が住んでいることが後半で判明する。

 

主人公は最初、単一国に何ら疑問をもたないナンバーの一人だった。自由がゼロになれば完全なる幸福が実現するという単一国の考えの従っていた。しかし、一人の女性に出会うことによってその考えは変化する。それまでは理性が彼を支配していたのだが、そこから初めて感情が生まれたかのようだ。その感情は疑問、憎しみや苦しみ、愛だったりする。これらの感情は覚え書きの中では魂、想像力、夢、√-1、毛むくじゃらの手などと表現されている。

 

人々の中にはこの単一国の体制を打ち破ろうとする革命家たちがいた。彼らは「メフィ」と呼ばれ、秘密裏に人数を増やしていた。(守護者の中にもその仲間がいた。「メフィに入っていなくても単一国に従うことを喜ばない人々はかなり多かったようだ。)彼らは都市を囲む緑の壁を破壊し、外にいる人間たちと合流するという目標をもっていた。主人公の出会った女性もその一人だったのである。

 

物語の最後、緑の壁を破壊することには成功した。しかし主人公は大手術(ロボトミー手術みたいなものか?)を受けさせられ、思考(魂)を失ってしまった。そして再び単一国の、そして理性の勝利が予言されて物語は終わる。

 

題名の『われら』とは、単一国のナンバーたち全員を指す。「われら」は一つの有機体であり、意志をもたない。(それに対して革命を起こそうとした人々は「彼ら」と呼ばれる。主人公は最初、「われら」であったが、だんだんとそれに疑問を持ち始め、ほぼ「彼ら」になるが、物語の一番最後で再び完全に「われら」に戻ってしまう。)

 

今を生きる現代人も未来には国家と科学の権力が増大していって「われら」になってしまう可能性がある。この作品は100年たった今でも人々に文明の行きすぎについて忠告をしてくれている。