「あつ森」世界ではなぜインフレが発生しないのか Part.2

前回の続きです。

 

kyshami.hatenablog.com

前回から投稿の間が空いたのは、貨幣に関する本を読んで参考にしようと思ったのですが、それを読むのに時間がかかったためです。

 

住民の貨幣観念

前回に確認した通り、無人島に住む住民たちは貨幣に対しては他の商品とは異なる感情を抱いていることが分かる。プレイヤーが贈与しようとしても唯一受け取ってくれないのが貨幣だからだ。この事実は住民たちが貨幣の価値を信用していないことを意味するものではない。なぜなら、筆者の島の住民であるシドニーの「実は、大好きな本の 新刊が出たんですけど 少しだけ お金が足りなくって まだ 買えてないんですよね・・・」「いらないものが 4つほどあるので それを売って 足しにしようと思うんですけど 何か買っていただけませんか?」という台詞から分かるように、おそらくはたぬき商店で売られているであろう商品を買うために貨幣を手に入れようとしているからだ。これは貨幣の価値を理解しているからこその言動だろう。

 

つまり、住民たちはプレイヤーとの交換の際には貨幣を使用せず、島内の商業施設を利用する際には貨幣を使用するのだろう。貨幣は一般的に物々交換を円滑に進ませるための道具としての役割があると考えられているが、「はじめに」でも確認したとおりゲーム内の全ての登場人物は必ずしも経済活動をする必要性がないことから、住民は基本的には物々交換で事足りる。それ故、プレイヤーとは主に物々交換を行い、どうしても欲しいものがあるときは貨幣をもって商業施設で購入するということだ。

 

以上をまとめると、住民間での貨幣の価値は0に等しく貨幣がない世界であり、ただたぬき商店などの商業施設との間でのみ貨幣の価値が発生しており、そこだけが貨幣のある世界になっているということできる。

 

貨幣系譜論

それでは、このように限定的にしか価値をもたない貨幣が流通できている理由は何だろうか。つまり、貨幣に価値を与え、保証しているのは何かということである。

 

この問題については古来より「貨幣法制説」と「貨幣商品説」の対立する二つの説がある。現実世界の貨幣について考えているこの二つの説を「あつ森」世界に当てはめて考えよう。

 

まず「貨幣法制説」を否定する。これは要約すると貨幣の価値は法律などによって決められたという説だが、「あつ森」世界にはおそらく法律がない。そもそも立法機関がなく、違反したとしてもそれを裁くための司法機関がない。権力によって価値を定められてはいないので、「貨幣法制説」は成り立たない。

 

次に特定の商品が貨幣に選ばれていったという「貨幣商品説」だが、これについては断言できない。なぜなら、「あつ森」世界の歴史を知ることができないからだ。「あつ森」世界における古代(今の世界を一応現代と考えよう)では何が今の貨幣の役割を果たしていたのか分からない。最初は金鉱石そのものが貨幣として使われていたのが、そのうち量や形が規定された刻印のある今の形になったのならば、商品説も成り立つ余地があるが、古代より一貫して今の形の貨幣が流通していた可能性もあるので、断言は出来ないだろう。

 

では、なぜ住民たちは今の貨幣に価値があると考え使用しているのか。それはたぬき商店やエイブルシスターズといった商業施設では貨幣のみが商品と交換するために使用できるからに他ならない。特定の商品が欲しいと思った時には、商業施設に貨幣をもっていく必要がある。貨幣以外では商品を売ってくれないからである。上で確認した通り、住民間では物々交換が基本なので、貨幣が必要となるのは商業施設が主である。そして商業施設のどうぶつたちは貨幣を受け取って商品を売ってくれるだろうという信頼が、住民たちに所持品を売らせ、貨幣を求めさせ、それによって貨幣が流通する。商業施設が求めるものが例えば鉄鉱石であれば、今の貨幣の代わりに鉄鉱石が流通し、その後は鉄鉱石が貨幣の役割を果たすようになって今の貨幣は消えるだろう。商業施設の動物たちヘの信頼が貨幣に価値を与えていると言える。

 

そうすると次の疑問が出てくる。なぜ商業施設のまめきちつぶきちなどのどうぶつたちは貨幣を受け取ってくれるのだろうか。

 

この理由も、島外のどうぶつが受け取ってくれるからだろうと一応は予想できる。前回にも確認した通り、たぬき商店やエイブルシスターズは島外から商品を輸出入していると思われる。その際に物々交換ではあの種類の商品を仕入れることはできないだろうから、おそらくは貨幣を使って島外の貿易会社と商品のやりとりをしているのだろう。その際に島内と同じ貨幣を使用できる、もしくは他の種類の貨幣と交換した上で使用できるために、島内住民の貨幣を受け取ってくれると言える。ここで島外にどれほど島内と同じ貨幣が流通しているのかを考えると、ドードーエアラインズで離島に行った際に、石をたたくと島内と同じ貨幣が出てくることから、ある程度島外にも同じ種類の貨幣が流通しているのではないかと推測できる。

 

 

さて、再び字数が多くなってしまったのでここで一旦区切り、Part.3は次回に回そうと思う。そこでは価格決定の方法や需要と供給について考えたい。