書評

黒田明伸『貨幣システムの世界史』Part.終

黒田明伸『貨幣システムの世界史』のまとめ。 前回はこちら。 kyshami.hatenablog.com 第4章 ここではまず中国の銅銭使用について見ている。歴代の中国王朝は統一された銭貨を発行して民間に受領させようとしたが、各地で私鋳銭が作られてその浸透は上手くい…

黒田明伸『貨幣システムの世界史』Part.1

黒田明伸2003『貨幣システムの世界史』岩波書店.のまとめ。 日本の経済学史の本を読んでいると必ずと言っても良いほど引用されているので私も読もうと思ってbook offで買いました。以下、まとめ。 序章 現在では日本でも共通で円という単位で一つの通貨が流…

早島大祐『徳政令』Part.終

高木久史『徳政令 なぜ借金は返さなければならないのか』のまとめ最終回。 前回はこちら。 kyshami.hatenablog.com 徳政令に関連して分一徳政令という奇妙な法令が誕生した。その背景には室町幕府の財源確保という目的があった。徳政令により経営縮小を余儀…

早島大祐『徳政令』Part.2

早島大祐『徳政令』のまとめ二回目。 前回はこちら。 kyshami.hatenablog.com 今回は4~7章のまとめ。 金融業が上手くいくためには二つの条件がある。1つ目は返済が十分に期待できる制度環境があること、2つ目が貸し倒れのリスクを上回るほどの借用需要の発…

早島大祐『徳政令』Part.1

早島大祐2018『徳政令 なぜ借金は返さなければならないのか』講談社現代新書.のまとめ。 日本中世に頻繁に出された徳政令とは、ある日突然借金が帳消しになってしまう事態のことである。ただし徳政令は時代とともに変化した。古代においては文字通り徳のある…

高木久史『通貨の日本史』Part.終

高木久史2016『通貨の日本史』中公新書.のまとめ、最終回(次の「幕末維新~現代」は理解出来なそうなので近世で終わり。そして今回の江戸期も難しいので短め)。 前回はこちら。 kyshami.hatenablog.com 江戸期には三大改革を始め、多くの改革が行われたが…

高木久史『通貨の日本史』Part.2

高木久史『通貨の日本史』のまとめPart.2です。 前回はこちら。 kyshami.hatenablog.com 今回は2章近世前期。 江戸の貨幣制度は中世にその起源を求めることが出来る。例えば、銭の国内生産は各地で行われ、無文銭などが登場する。形態としては商人が職人を雇…

高木久史『通貨の日本史』Part.1

高木久史2016『通貨の日本史 無文銭銀、富本銭から電子マネーまで』中公新書のまとめ。 第1章 中世~古代 日本では古代から社会慣行として布、米、塩が通貨として使われていた。金属貨幣では天智天皇の治世には円形で中心に孔のある無文銭銀が存在していた。…

安良城盛昭『太閤検地と石高制』Part.終

安良城盛昭『太閤検地と石高制』のまとめ最終回。 前回はこちら kyshami.hatenablog.com 石高制の成立は太閤検地の開始時期である天正10年というのが通説であったが、実はそれ以前に成立していた。耕地に課されて実際に収取される年貢は多くが米であり、残り…

安良城盛昭『太閤検地と石高制』Part.2

安良城盛昭『太閤検地と石高制』のまとめのPart.2 前回はこちら kyshami.hatenablog.com 豊臣秀吉の年貢搾取の体系は天下統一以前にできあがっていた。畿内では太閤検地が繰り返され、その原型が作られていく。例えば収穫量の3分の2を領主分、3分の1を百姓分…

安良城盛昭『太閤検地と石高制』Part.1

Amazonで大分昔の古本を購入してしまいました。 安良城盛昭1969『太閤検地と石高制』NHKブックス. 去年、大学の授業で各時代毎に主要な論文を読んでいく授業があったのですが、その中で私が最も感動した論文が「太閤検地の歴史的意義」でした。 それを書いた…

『日本経済の歴史1 中世』Part.終

『日本経済の歴史1 中世』の第3章まとめ。 前回はこちら。 kyshami.hatenablog.com 第1節 「中世の農業構造」西谷正浩 中世成立期には大河川の中流域を中心に水田開発が進んだ。そして地域差を伴いながら粗放的な農業から集約農業へと発展した。ただし、収穫…

『日本経済の歴史1 中世』Part.3

『 日本経済の歴史1 中世』のまとめ。 kyshami.hatenablog.com 前回は第2章をまとめたが、今回は都合により第5章まとめ。 第5章 中世の交易(綿貫友子) 第1節では中世の特徴として権門体制、職制社会、自力救済型社会の3つを挙げている。そしてこれらの特徴…

『日本経済の歴史1 中世』Part.2

『日本経済の歴史 1中世』の第2章まとめ。 第2章は第1節が中世貨幣(本多博之)、第2節が中世の金融(早島大祐) 第1節 中世貨幣ー渡来銭の時代 中国銭を中心とする渡来銭は12世紀半ば以降、貿易を通じて日本に大量に流入された。それは元朝の銅銭使用禁止の政策…

『日本経済の歴史 Ⅰ中世』

岩波講座『日本経済の歴史 Ⅰ中世』岩波書店.2017のまとめ。 序章~第5章まであり、それぞれ執筆者が異なるので一日一章ずつまとめていく。今日は1日目、第1章「人口と都市化と就業構造」斉藤修・高島正憲のまとめ。 第2節 ここでは人口史を見ている。日本の…

ザミャーチン『われら』

ザミャーチン1920~1921『われら』の感想を書いていく。 ザミャーチンはソ連初期の作家。この『われら』が反ソ的だとされ、亡命せざるを得なくなった。 『われら』の舞台設定は今から、というより彼の生きた20世紀初頭から約1000年後。その間には大200年戦争…

南条あや『卒業式までは死にません』

かなり前に書いた下書きが残っていたので投稿しようと思います。 南条あや『卒業式までは死にません』の感想。 「南条あや」という名前を聞いたことのある人はどのくらいいるのだろうか?年代が上の方のほうが知っていると思う。世紀末に現われたネットアイ…

チェーホフ『三人姉妹』

チェーホフ『三人姉妹』の感想を書いていく。 チェーホフ『三人姉妹』は1900年に書かれた戯曲。砲兵旅団長の父と母に先立たれた三人姉妹(上から順にオーリガ、マーシャ、イリーナでマーシャとイリーナの間に息子のアンドレイがいる)とそのもとに集まる人々の…

オストロフスキー『鋼鉄はいかに鍛えられたか』

オストロフスキー『鋼鉄はいかに鍛えられたか』(1932~1933)の感想を書いていく。 この小説は作者であるオストロフスキー自身が体験したことをもとにして革命期から第1次世界大戦後までのウクライナ、ロシアで革命に命を捧げた青年たちの人生を描いた作品だ。…

網野善彦「日本の歴史をよみなおす(全)」

網野善彦「日本の歴史をよみなおす(全)」2005.ちくま学芸文庫のまとめを書いていく。 この本は前半に1991年に書かれた『日本の歴史をよみなおす』、後半に1996年に『続・日本の歴史をよみなおす』を収録している。前半は以前に読んだ『日本中世に何が起きた…

チェーホフ『桜の園』

チェーホフ1904『桜の園』の感想を書いていく。 『桜の園』はチェーホフの最後の作品である。 中心となる人物はラネーフスカヤ夫人。南ロシアの地主である。物語は彼女がフランスから5年ぶりに帰るところから始まる。 最初は時代の流れについて行けずに落ち…

「ゴーリキー短編集」

上田進、横田瑞恵訳編「ゴーリキー短編集」岩波文庫の感想を書いていきます。 収録されているのは「イゼルギリ婆さん」「チェルカッシ」「秋の一夜」「二十六人の男と一人の少女」「鷹の歌」「海つばめの歌」「零落者の群」の7編であり、ほとんどが1890年代…

網野善彦『日本中世に何が起きたか』

網野善彦2012『日本中世に何が起きたか』の感想とまとめを書いていきます。 「無縁」について 最初に自然と人間との境界について論じている。人間と自然との境界、言い換えると聖と俗を結びつける場所である。具体的に場所で言うと浜、浦、河原、中州、峠、…

若島正『ロリータ、ロリータ、ロリータ』

ナボコフ『ロリータ』の感想を以前書きました。 kyshami.hatenablog.com ここで言及した若島正『ロリータ、ロリータ、ロリータ』が手に入ったので、感想を書きたいと思います。 訳者である若島正さんがいくつかの場面に絞って解説している本です。私が思って…

ソルジェニーツィン「イワン・デニーソヴィチの一日」

ノーベル賞受賞作家ソルジェニーツィンの「イワン・デニーソヴィチの一日」の感想を書いていきます。 主人公のイワン・デニーソヴィチ、シューホフはラーゲルという牢獄で暮らしている。題名の通り、シューホフが起きてからよる寝るまでの一日のラーゲル暮ら…

書評 ナボコフ『ロリータ』Part.2

前回の『ロリータ』の続き kyshami.hatenablog.com 前回、訳がすごいと書いたのだが、注釈では若島さんから我々読者に対していくつかの問題が提示されている。いくつかを解いてみたのでここに書きたい。 ビアズレーにいるときにハンバートがローの友達の何人…

書評 ナボコフ『ロリータ』

ナボコフ『ロリータ』の感想を書いていきます。 「ロリータ」はソ連の亡命作家ナボコフによって1953年に書かれた作品。その内容から大きなセンセーションを巻き起こした。 「ロリータ」という語はここから派生したものらしい。 ソ連作家の作品を読みたくて購…

書評 ゴーリキー『どん底』

ゴーリキー『どん底』 ゴーリキー作『どん底』は1902年に書かれた戯曲。おそらくゴーリキーの作品の中で一番有名だろう。全体は四部構成で、ロシア帝政下の最下層の住民の様子を生々しく描き出している。 『どん底』においてまず目に付くのはロシア革命前の…

ゴーリキー「二十六人の男と一人の女」

今回はゴーリキー著「二十六人の男と一人の女」中村唯史訳.2019.光文社古典新訳文庫の書評です。いつも通り、書評というか感想文ですが...... なぜこの本を買ったかというと、大学で訳者の中村唯史先生の授業を受けていたからです。「スラブ文学講義」という…

書評 『日本史の論点』

今回は書評です。 中公新書編集部編2018『日本史の論点 邪馬台国から象徴天皇制まで』という本です。最新の研究動向を知りたくて購入しました。 本書では古代、中世、近世、近代、現代それぞれの5人の研究家によって現在の日本史研究の論点をまとめられてい…